宗教遺産巡りコース

B 来迎寺と民間信仰

                  来迎寺マリア観音像
来迎寺のマリア観音  来迎寺には佐比内地区の旧家から秘仏として預けられたマリア観音像が伝えられている。隠れキリシタンが聖母マリア像に見立てて崇拝した観音像である。このマリア観音は、高さが107p、カツラ材の木彫像である。キリスト教信仰の弾圧を避けるため、髪を結った観音像を装っているが、頭部は取り外せるようになっている。袈裟の代わりにマントで身を包み、右手に小さな幼児を抱える。佐比内地区では、家の中に仏壇や神棚を備え、檀家や氏子として振舞いながら、密かにキリスト教の信仰を守ってきた実態があった。

     来迎寺境内の大荒神神社

大荒神神社  来迎寺の境内には大荒神が祀られている。荒神の正式名称は三宝荒神であるが、民間信仰では台所の神として祀られる神格である。江戸時代の絵図では、「秋葉宮」として記録されている。火防の霊験で広く知られ、その信仰は秋葉修験者の布教とあいまって、江戸時代中頃から火災に悩む江戸市中に急速に広がった。電気街で著名な秋葉原は、江戸の火除け地であった「秋葉の原」が起源とされる。日詰町は、近世期には8回の火災に見舞われ、地元民が火伏神として来迎寺に祀ったものと考えられる。


  絵図に描かれた金毘羅社・秋葉社・水天宮社
水天宮と金比羅宮  来迎寺の境内に水天宮と金毘羅宮が江戸時代の絵図で確認できる。総本宮の水天宮(福岡県久留米市)は、古くから水神として農業・漁業・船舶業者などから信奉されてきた。金刀比羅宮は、香川県琴平町に鎮座する神社で、海上安全の守護神として信仰され、「こんぴらさん」の名で親しまれている。来迎寺の近くには藩政時代に高水寺城跡の東部川岸に盛岡藩が設営した郡山河岸があった。北上川に向かう外港小路も整備され、両宮は水上交通の守り神として多くの水運関係者から崇敬された。 


  六字名号短冊
御名号流し  夏季に行われる祖先の霊を祀る一連行事は「盆」と呼ばれ、その基本は精霊を迎え、祀り、送るという魂まつりである。盆に帰ってきた精霊は、山・川・海などから再びあの世へ送られる。送る際に送り火を焚くのが伝統的な風習であり、京都の五山送り火、盛岡の舟っこ流しなども送り火の一種である。すべての仏・菩薩の名前を名号というが、浄土門系では特に「南無阿弥陀仏」を「六字の名号」という。来迎寺では「南無阿弥陀仏」と書かれた短冊を北上川に流す「御名号流し」が盆行事として行われている。